今回の作品では、箏特有の奏法に焦点を当て、独奏箏とオーケストラの関係性の中でその音響を観察する。楽曲は3楽章から構成される。
Ⅰ.摺る(する):Rubbing
1楽章は人差し指と中指の爪の裏側を隣り合う2本の絃にあて、絃に沿って摺る、「摺り爪」という奏法を中心的に構成される。箏独奏による摺り爪から音楽は始まり、そのホワイトノイズを模倣・複製するようにオーケストラは微細なノイズを塗り重ねてゆく。
Ⅱ.流す:Flowing
2楽章においては、グリッサンドを中心とした下降音型に焦点を当てる。オーケストラには半音階による下降音型を採用し、箏に設定された複合的なペンタトニックと半音階が衝突を続け変容してゆく。
Ⅲ:掻き鳴らす:Strumming
終楽章は、前半は「スクイ爪」、後半は「シャシャテン」を中心に構成される。「スクイ爪」は箏爪の裏で絃をすくうように弾く奏法である。スクイ爪の速度変化は、オーケストラにおけるテンポ変化と乖離・衝突を繰り返すが、最終的に一致を見出す。後半は生成されたビートの上で、「シャシャテン」に内包された3・2のリズムが増殖し、そのリズムはオーケストラ全体に波及する。
2023年6月2日(金)創造の杜2023
管弦楽:藝大フィルハーモニア管弦楽団
The Geidai Philharmonia Orchestra, Tokyo
指揮:ジョルト・ナジ(東京藝術大学音楽学部特別招聘教授)
Conductor: Zsolt NAGY
東京藝術大学奏楽堂にて初演。
https://www.geidai.ac.jp/container/sogakudo/122266.html