Hallucination for Chamber Orchestra

 

いずみシンフォニエッタ大阪 第51回定期演奏会

「和洋感応 —愉悦の流域」

日時:2024年2月10日(土)

飯森範親(指揮)

いずみシンフォニエッタ大阪

 

「ハルシネーション」とは「幻覚」「幻影」を意味する言葉であるが、人工知能(AI)が事実とは異なるがもっともらしい嘘を生み出すことを指す。今回、室内オーケストラの作品を書くにあたり、ぼんやりと海の作品を書きたいと思ったところから始まった。そのイメージから、ネットの海、人工知能のハルシネーション、波打ち際のあわい、事実と嘘の境界線…と連想的にコンセプトが緩やかに繋がり、作品が形作られていった。作品は4楽章から構成される。

Ⅰ.the edge of the surf

波打ち際。ひそかに蠢く粒子が徐々に集まり、大きな波となってゆく。やがて波は煌めきながら砕け散る。

Ⅱ. Melting Choral

長い時間をかけて移り変わる和音に、掠れたコラールや雅楽的な響きが折り重なり合い、溶け合ってゆく。

Ⅲ.Paste & Paste

非常に短く密度の高い楽章。AIによるそれっぽい嘘が連鎖するように、脈絡なく様々なブロックが貼り合わされ接続してしまう。

Ⅳ.Dancing Memes

ミーム Memeとは動物行動学者リチャード・ドーキンスが提唱した概念で、「脳内に保存され、他の脳に複製可能な習慣・物語などの社会的、文化的情報」を意味する。とりわけインターネット文化においては、人から人へ、模倣として拡がっていく行動やコンセプトなどを指す言葉として使用される。本楽章ではあたかもインターネット上で情報が模倣され、拡散されるように、半音階で上行する音型が徐々に伝播してゆく。また、ビートの上で突然全く別の楽曲が挿入される瞬間が存在する。模倣/複製され、増殖し乱舞するミーム。

この作品は、現実と幻覚の間で、西洋と東洋のはざまで、あるいは目まぐるしく移り変わる社会の中で、溶けてゆく様々な境界線を見つめ、愛でるものである。